過労死防止大阪センター

◆脳・心臓疾患の認定基準、20年ぶりに改定

1 厚生労働省は、同省が設置した「専門検討会」が2020年6月から1年あまりかけてとりまとめた「専門検討会報告書」を踏まえ、2021年9月14日、「血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準について」と題する新しい脳・心臓疾患の認定基準を発出しました。今後はこれに基づいて労災認定を行われます。

2 新認定基準のポイントは次のとおりです。

(1) 「長期間の過重業務」における労働時間と労働時間以外の負荷要因の総合評価

①従来の長時間労働の基準(時間外労働時間が発症前1か月で100時間、又は2~6か月で月平均80時間以上)は維持しつつ、「これに近い時間外労働時間があった場合は、労働時間以外の負荷要因を十分に考慮して判断する。

②労働時間以外の負荷要因において一定の負荷が認められる場合は、労働時間の状況も総合的に考慮して判断する。

(2) 労働時間以外の負荷要因の見直し

①勤務時間の不規則性

・拘束時間の長い勤務

・休日のない連続勤務

・勤務間インターバルが短い勤務

・不規則な勤務・交替制勤務・深夜勤務

②事業場における移動を伴う業務(出張の多い業務、その他)

③心理的負荷を伴う業務

・日常的に心理的負荷を伴う業務

・心理的負荷を伴う具体的出来事(精神障害の認定基準の心理的負荷表を参考に内容を拡充)

④身体的負荷を伴う業務(新規追加)

⑤作業環境(寒冷のみならず高温も評価)

3 評価

①「時間外労働時間が月65時間以上は業務と発症の関連性が強いと評価すべき」だという過労死弁護団の意見は採用されませんでしたが、「65時間を超える場合には、労働時間以外の負荷要因と総合評価して判断する」とされたことから、時間外労働時間が足りないとして認定されなかった事案が救済される可能性が大きく広がったと考えられます。

②時間外労働時間と労働時間以外の負荷要因が相関関係にあることを明確にしたことから、時間外労働時間がわずかな場合でも、労働時間以外の負荷要因が特に強ければ、労働災害と認められる可能性が出てきたと考えられます。

③もっとも、認定基準改定以前の問題として、労働時間が適正に把握されているか、持ち帰り残業や休憩時間・待機時間などどう認定するかが、引き続き大変重要です。

弁護士 岩城 穣