過労死防止大阪センター

「仕事疲れ」自殺 再び増 遺族 消えぬ自責の念 30〜40代多く

2015.05.21
「仕事疲れ」自殺 再び増 遺族 消えぬ自責の念 30〜40代多く
読売新聞 大阪夕刊  夕社会  11頁  1698字  05段

◆昨年685人

過労が理由とみられる自殺が増えている。警察庁の統計で「仕事疲れ」による自殺者は2012、13年と2年連続で減少したが、昨年は増加に転じ685人(前年比36人増)に上った。昨年11月施行の「過労死等防止対策推進法」に基づき、国は自殺を含む過労死の実態調査などを行うが、遺族や弁護士らも各地で市民団体を作って、労働者の相談を受けたり、大学で特別授業を開いたりと防止に向けた活動が広がり始めている。

警察庁の統計によると、自殺者数は防止策の強化や景気回復などで10年から5年連続で減り、昨年は2万5427人(前年比1856人減)。一方、同庁が「仕事の失敗」「職場の人間関係」など原因を遺書などから分析し始めた07年以降、過労など「仕事疲れ」とみられる自殺者は700人前後で高止まりし、13年は649人まで減ったが、昨年は685人に増えた。

うち男性は91%(623人)。年代別では〈1〉40〜49歳 186人(前年比2人増)〈2〉30〜39歳 152人(同13人増)〈3〉50〜59歳 148人(同5人増)〈4〉20〜29歳 134人(同2人増)——の順だった。

総務省の調査(13年)では週60時間以上働く人の割合は全体の8・8%に対し、30歳代男性で17・6%、40歳代男性で17・4%とほぼ2倍に上っている。

厚生労働省は4月下旬、同法に基づく大綱素案を公表、20年までに週60時間以上働く人を5%以下に減らすなど目標を掲げている。「過労死や過労自殺の詳しい実態はわかっておらず早急に調査したい」とする。

増加の背景について、過労死問題に詳しい森岡孝二関西大名誉教授(企業社会論)は「不景気で正社員の採用抑制が続いた後、景気が上向いてきたため、少ない社員で急増する仕事量をこなさなければならない状況があるだろう。特に働き盛りの30〜40歳代の男性は長時間労働の傾向が強い。助け合う風土が失われ、パワハラが横行する会社もある。過労の人は必ずSOSを出しており、周囲の対応が重要だ」と指摘する。

◆「あの時どうすれば…」大学生に語る

「眠れない、食べられないと言う夫が仕事に行くのを止められず、自責の念に苦しみました」

大阪府吹田市の関西大で4月、飲食店店長だった夫・彰さん(当時49歳)を過労自殺で失った寺西笑子さん(66)(京都市)が、大学生たちに切々と語りかけた。

遺族や弁護士らでつくる市民団体「過労死防止大阪センター」(大阪市、06・6809・4926)が主催する特別授業。

彰さんが店長に昇格した1992年はバブル景気後の不況。ノルマを達成できず、連日叱責された。年間労働時間は4000時間を超え、うつ病を発症しても、仕事は軽減されなかった。

4年後の2月14日。寺西さんは彰さんにバレンタインデーのチョコレートを手渡して送り出した。いつもより元気がない夫。それが最後に見た姿だった。彰さんは翌日未明、自宅近くの高層住宅から飛び降りた。

寺西さんは、当時、過労の認定基準がない中で労災申請をした苦労や、代表を務める「全国過労死を考える家族の会」が働きかけて過労死等防止対策推進法が成立した経緯を説明。「夫は帰らない。私はあの時、どうすれば良かったのか。過労死はどうすれば防げるのか。遺族がそんな思いで先頭に立ってようやく命を守る法律ができたことを知ってほしい」と結んだ。

受講した2年生の西川嵩也さん(19)は「仕事のせいで人が死んでしまう厳しい現実に驚いた。深夜まで働く母親が思い詰めているかもしれないし、将来の自分が過労になるかもしれない。問題意識を持ち続けたい」と話した。

同大阪センターは6月に立命館大でも授業を行う予定。遺族らは同法の施行を機に「過労死等防止対策推進全国センター」を発足、各地でも拠点作りが進む。関西では昨年11月に兵庫センター(神戸市、078・371・0171)、今年4月には京都連絡会(京都市、075・394・6901)も設立されている。

図=「仕事疲れ」を理由とする自殺者数の推移 ※警察庁統計より
写真=自らの体験を、学生に話す寺西笑子さん(大阪府吹田市の関西大学で)=守屋由子撮影