過労死防止大阪センター

三菱電機の労災被災者報告
  2017年4月14日過労死防止大阪センター総会講演

 私のほうからは、こちらの資料なんですけど、パワハラ・過重労働による精神疾患の体験談ということで、パワハラと精神疾患がどのようにして起こったかということをまとめさせていただいております。詳しくはこちらに書いてあるんですけど、今回、一労働者として、皆様に対して訴えかけができればいいなと思っています。

 私は鎌倉市大船にある三菱電機、正式名称は三菱電機株式会社、研究所の名前が情報技術総合研究所というところで働いておりました。その時の長時間労働が原因で、パワハラもあったんですけど、それで精神的不調になりまして、労働基準監督署のほうから労災というふうに認定を受けた者でございます。現在、「よこはまシティユニオン」という、1人でも入れる労働組合のほうに加入させていただきまして、そこで活動しています。このたび現場の意見を皆さんにお届けするということで、一労働者としてこのような場所で発表させていただけることを大変光栄に思っております。

 発表の内容なんですけど、先ほど発表していただいた綿貫さま(大阪労働局監督課長)とかぶるところがだいぶあるのかということで、くどくなってしまうかもしれないのですけど、逆に言えば労働局の皆様が我々労働者の意見をよく聞いていただいているなと、ありがたいなと、それはそれとして、労働者として話させていただければと思います。

 よろしくお願いいたします。

 私は研究者でしたので、研究・開発の現場は長時間労働でいかに悲惨な現状にあるかということをお伝えできればと思っております。そして二度と繰り返さない、私のような被害者を生まないために、国や企業には実効性のある長時間労働是正を1日も早く実現するということとともに、長時間労働を加速させるような労働基準法の規制緩和に断固反対いたします。また過重労働やパワハラに今、苦しんでいる労働者の皆様やその家族には、支援団体や労働組合、労働基準監督署、そして弁護士への一刻も早い避難を呼びかけます。

 私の経歴ですが、大学院博士課程を卒業後、2013年4月、もう4年前ですね、に、三菱電機に新入社員として就職し、研究員として配属されました。

 配属された研究所なんですが、もう入った当時から先輩方を見ると長時間労働だったりとか、パワハラが蔓延している劣悪な環境で、何人も先輩方が病気になっていた、既に病気を出していたというような状態でした。ですので自分もいつ激務に巻き込まれるのか、そして同じような病気になるかわからないなということで、配属の年から戦々恐々としておりました。

 新入社員の、12月ごろから仕事が忙しくなりはじめたんですけど、翌年、新入社員1年目ですね。2014年2月には月の残業時間が160時間を超えるようになりました。さらに、160時間を超えてるんですけど、帳簿上はそうなっていないということで、長時間労働を隠蔽するために上司から残業時間を過少申告して、自己申告ですね、するよう強要されていました。

 三菱電機のセキュリティシステムにおきましては、会社の入場・退場というのは、社員証を兼ねたICカードによって記録しておりました。ですので、いつ、どこに、誰がいるのか。あるいは後から見ても、いたのか、というのが徹底して把握していました。それにもかかわらず、残業時間の管理というのは、今もそうなんですけど、自己申告制というふうになっております。私の上司は、日頃から私たち部下に対しまして、いわゆるパワハラを行っていて、過少申告を命じられても逆らうことはできませんでした。

 このような研究者としてのやりがいや夢に付け込んだ長時間労働の強要とパワハラは非常に辛く苦しいものだったというふうに思っております。私だけではなく、数多くの同僚も似たような、それ以上、ひどい目にあっていました。

 私は激務とパワハラによって、不眠や抑うつ状態となり、入社1年後ですね、2014年7月にドクターストップがかかって休職するということになりました。

 それから2年ぐらい、今も休んではいるんですけど、2年ぐらい経ったときに、会社から「2016年6月までが休職期間である。それまでに復職できない場合は会社の規定があるから解雇する。」と連絡されました。しかし、うつ病が完治していなかった事に加えて、職場に過重労働とパワハラの改善が見られないということがありました。何人か病気されて戻ってくる方もいらっしゃったんですが、先輩でいらっしゃったんですけど、また同じような病気になってまた休むというのを繰り返していたので、根本が全然改善されていないので、それで繰り返されているんだなというふうに思って、これでは戻ってもまた病気になるだけだし、納得いかないということで、病気が治ってないということもあるんですけど、仮に戻ったとしても意味が無いなということで、2016年6月までの復職は不可能でした。

 そこで、まずはユニオンショップで加入していた三菱電機自体の労働組合を通じて解雇をしないよう会社に交渉してくださいというふうに頼みました。ところが、労働組合の委員長は「規則は規則なので休職期間の延長は難しい。期限までに頑張って元気になってください。」と言って交渉を拒否しました。

 私は労働組合が労働者よりも会社側に立つなんて酷い、そもそも会社の組合がこんな調子だから今までこんな悪質な労働環境が野放しにされているんじゃないかと憤りました。そこでいわゆる御用組合を諦め、一人でも加入できる労働組合の『よこはまシティユニオン』を通じて、会社に対して交渉を始めることにしました。会社に対しまして、会社が提示する期間までの復帰は無理です、と。現在はもう認定されたんですけど、そのときはまだ認定されていなかったので、申請中の労災が認定となれば、解雇はできないはずでしょう、と伝えたんですが、会社の返答としては「過重労働もパワハラも存在しなかった。労災ではなく勝手に病気になった、私傷病による休職である。」として労災申請結果を待たずに、去年の6月に解雇しました。

 そして2016年11月に労働基準監督署は「過重労働が原因の精神疾患である。」と労災を認定しました。しかし、三菱電機はいまだに「過重労働もパワハラも調べたけど存在しなかった。会社の労務管理には問題ない。」と開き直っています。また、三菱電機労働組合も『自己啓発』を頑張りすぎて勝手に病気になったというスタンスです。

 以上が経緯となります。

 現在私は、多くの皆さんに、正しい労務管理が行われる社会にして欲しいと訴えるため、声を挙げています。私がこのように立ち上がったのは、決してこれは私一人だけの問題ではないからです。

 会社の研究所に来るのは、ほとんどが修士過程や博士過程を卒業した人達です。日本が誇る教育機関が大金と何十年という時間をかけて大事に育ててきた人材です。彼らは研究者という仕事に憧れて夢とやりがいを胸に秘めて入社した若者です。その若者達がほんの数年で、違法な長時間労働により会社に使い潰されているのを目の当たりにして黙って見過ごすことはできません。

 現在、「長時間労働を苦とせず、人生すべてを仕事に捧げることが正しい会社員の価値観だ。」という人が出世し管理職以上の立場にいます。今の若者はこの危険な価値観の犠牲となっております。特に、高度な専門性を求められる研究職においては、

「研究者はプライベートを捨て、昼夜を問わず、寝食を忘れて研究に没頭すべきだ。」

という偏見が残念ながら今も色濃く残っています。

 それにもかかわらず将来ホワイトカラーから残業制限を撤廃して、長時間労働を助長するなんてことは絶対にやめていただきたいです。非常に危険です。今ですらろくに研究者の心身は守られていないのに、労働基準法が改悪されればさらに恐ろしいことになるでしょう。

 研究開発の分野では、『今までに前例のない初めての事柄にチャレンジする。』また、『現場の未知のトラブルに対応する。』ということから、仕事の成果に対してどの程度の時間がかかるのかわからない事が多くあります。これを言い訳に三菱電機は、今も「研究者は自己申告制、裁量労働制に馴染む。」と言い切り過重労働を野放しにしています。どんな職種であっても仕事をするのは人間です。人間である以上、休息をきちんと取らなければ健康を損なうことは当たり前のことです。

 また、労働者の健康を守るというのは当然のことですが、『正しい成果や利益を見積もる。』という経営する上で使用者が当然やるべき課題においても、この研究開発の実労働時間や会社の拘束時間を正確に把握することは非常に重要です。実働時間に対する研究成果の予想が難しいならば、なおさら使用者側は徹底して時間と成果の関係を調べるのが当たり前ではないでしょうか。どのような仕事や本来の意味での自己啓発が成果に結びついたのか、あるいは結びつかなかったのか。これらを徹底的に調査し、今後の『適切』な労働時間や『適切』な仕事量、これらにきちんとフィードバックするべきです。これを三菱電機のように自らのマネジメントの失敗を開き直り、現場や部下に対して成果のみを求めるのは、使用者・労務管理者・マネージャとしての怠慢です。特に労働者の残業時間が多くなると、過少申告によってサービス残業させるなんて言語道断です。自分のマネジメント不足によるツケを労働者に対して押し付ける最低の行為です。

 安倍政権における働き方改革実行計画においては、研究者は残業時間の上限規制が適用除外されております。これでは使用者の怠慢を助長し、日本における研究開発分野の更なる衰退を招くことでしょう。健全な労務管理によってこそ、真の成長が生まれるはずです。決して目先の利益に捕らわれることなく、10年後、100年後と将来を見据えた改革をすべきだと思います。

 また、働き方改革におきましては、残業時間の上限やインターバル規制が求められております。しかし、仮にこれらが定められても今の自己申告制では全く意味がありません。ゲートの通過で記録された入退場時間をそのまま勤務時間と定める、休日のパソコン稼働時間を勤務時間に加える等、真に客観的な方法で労働時間をもれなく記録する必要があります。

 実際に三菱電機は36協定で残業上限を60時間と定めていましたが、パワハラと過少申告の強制で私は160時間の残業をしておりました。しかも他の同僚はそれ以上に残業をしていました。未だに三菱電機では、違法残業のことを『自己啓発』という言葉でごまかしています。

 今職場に必要なのは、残業制限の撤廃では無く、全ての職場に共通な、世界に誇れるような、厳格な長時間労働の規制です。

 会社や上司は私の将来や健康をメチャクチャにしておきながら、不起訴という形でした。会社からは未だにロクな謝罪はありませんし、上司もその地位を剥奪されることなく今ものうのうと仕事を続けています。個人的には悔しくてやりきれない気持ちです。

 将来や健康だけでなく、お金についてもそうです。私は入社1年目のペーペーでしたがそれでも未払いの残業代は月10万円以上となっていました。気分的には毎月大金をパワハラで脅し取られていたのと一緒です。また、私だけでなくたくさんの人がそのような目にあっていました。

 なぜ皆、これだけのことをされて声を上げないかというと、パワハラによる洗脳もありますがお金も時間もかかり大変だからです。さらに、仮に会社が起訴されていたとしても罰金はせいぜい30万円以下です。こんな『やり得』のままではブラック企業は同じことを続けるに決まっています。現に三菱電機は全く反省しておりません。労働法による取締を厳しくし、またその刑事罰を強化しなければ、日本の労働環境は決して健全とならないでしょう。

 さらに、労働者の立場としても、労働基準監督官の人数を増やして頂きたいと思っております。私が入社する以前から三菱電機はこのような違法労働を続けてきました。私のケースが初めてではありません。しかし、何年もこの状態が放置されていました。また、労働基準監督署に労災の調査を依頼してから認定までに半年以上かかりました。未だに三菱電機は是正勧告を受けていないということです。明らかに労働基準監督官の人数が不足しているのではないでしょうか。

 労働者の側としては、労基署に積極的に動いていただき、未然に不法労働を防いでいただきたいと思っております。それが難しいのであれば、もっと労基署の敷居を下げていただきたいなと思っております。今はもうそうではないかもしれないですが、昔は相談してもまともに対応してくれなかったり、これは今もあると思うんですが、証拠が不十分で認定されないというケースをよく伺っております。私もそれを恐れて、まずは弁護士と労働組合に相談をいたしました。そしてマンツーマンサポートを受けた状態で労災を申請しました。労基署からの聞き取り調査も、監督官の方から、なぜ弁護士や労働組合に頼るのですか、と。自分でやればお金はかからないのに、と言われて、すごくがっかりしたことを覚えています。現在、労働者と労働基準監督官との間でこれだけの認識の差があるということを知っていただきたいと思います。また労働基準監督署の皆様を助けるという意味でも、支援団体や労働組合、弁護士の皆様には、労働者の側にたってこの認識の差を埋めて欲しいと思います。

 私の経験した職場では、今ある労働基準法すら守られず、労働時間管理が野放しでした。しっかりとした労働時間管理と厳罰化、取締により、二度と私の様な苦しみを経験する方が生まれないようにしていただきたいです。

 一方で、自ら進んで正しい労務管理を行う、あるいは労働者を休ませることで、より素晴らしい研究結果を出す会社や研究所もあります。どんなに優秀な研究者・技術者であっても結局は人間です。人間だから休息が必要です。むしろ、優秀なプロフェッショナルほど上手に休んでいます。労働者の心身を守るだけでなく、さらなる成果を挙げる点でも労働時間管理が効果的です。そのことを十分使用者は理解し意識を変えていかなければなりません。そしてトップダウンで改革を推し進めていく必要があります。それでなければ、いくら制度や法律を整えたところで、使用者の意見が変わらなければ、抜け道はいくらでも探すことはできるでしょう。

 三菱電機における例を出すと、『休日に出勤する際、代休で自己申告するがその後代休をずっと取らない。』『平日に実験をして、休日にパソコンを持ち帰ってデータまとめや書類作成を行う。』などがありました。もちろんサービス残業です。書類送検されて、今、労務管理を改善したと言い張ってはおりますが、今なお行われていると聞いています。これでは全く意味がありません。いくら制度を取り繕っても、トップの意識から変えていかなければ労働者の健康を守ることはできません。

 また、働き方改革は、使用者側からだけでなく、労働者側からも行動すべきだと考えております。そして、今現在パワハラや過重労働に苦しむ労働者の皆様にもお伝えしたいことがあります。

 残念ながらトップダウンによる改革は時間がかかるでしょう。そもそも現政権における改革が残業上限を過労死ラインに設定するなど、とても労働者側に配慮しているとは思えません。また、三菱電機が悪い例で、労働者の健康や人権よりも目先の利益を優先する使用者が多いのが現状です。これでは真の働き方改革を待っている間に病気になります。最悪死が待っています。一ヶ月もあれば過労死は起きます。少しでも変だな、おかしいなと思ったらすぐに逃げてほしいと思います。パワハラや過重労働、サービス残業から逃げるということは決して恥などではございません。なぜなら、これらは労働災害、『災害』なのです。災害ですから、地震や津波、火事と一緒です。地震や津波からは避難することが人間として当たり前のことではないでしょうか。

 ただし、労働災害は地震や津波等と比べてわかりにくいという問題があります。私も精神を病んでしばらくするまで、これが労災かどうかわかりませんでした。また、申請してから労災認定されるのに半年かかりました。私はまだ運が良かった方で証拠が集まらず未だに認定されない方もいらっしゃいます。ですが、国が認めようが認めまいが健康や命を損なうのに変わりないのです。

 このように複雑だからこそ、支援団体やきちんとした労働組合、弁護士、労働基準監督署に頼ってほしいと思います。彼らは労働者の味方です。この問題はすぐに相談していただきたいと思います。

 もう一度繰り返しますが、パワハラや過重労働に苦しむときは、すぐに逃げていただきたいと思います。
 
 最後に、本日お集まりいただいた皆様にお願いがあります。ブラック企業は居場所だけではなく、逃げ場所すら奪っていきます。特に長時間労働で疲れ切っていると、逃げるというまともな判断はできなくなります。その人たちに、逃げ場所や居場所があるんだということを、支援団体、労働組合、弁護士、監督署、その皆様にはこれからも強く呼びかけていただきたいと思います。実際に私もこれらの方々と運良くお会いしたことで、ずいぶんと助かっております。更にもっとたくさんの労働者があなた方を必要としています。どうかよろしくお願いいたします。

 ありがとうございました。